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『ノマドランド』監督 クロエ・ジャオ

cinema
03 /31 2021
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「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、「ザ・ライダー」で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は、“現代のノマド(遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。(シネマトゥディ)

基本事前情報なしで映画を見ますが、それでも何らかの情報は入ってくるわけで、ある程度の予想を持って見ましたが、考えていたものと違いました。

1点はもっとストーリー性のある映画だと思っていたら、ほぼドキュメンタリーのようであったこと。実際主人公ファーンと出会うノマド民の人々が役者ではなく本当のノマド生活者。『ノマド 漂流する高齢労働者たち』というノンフィクションが原作だそうです。
2点目はリーマンショックをきっかけにノマド生活を始めることや、Amazonで季節労働者として働くことから、アメリカの歪みを描いた社会派映画だと思った点。
もちろんそういう点はあるのですが、私の印象ではある種の清々しさ。孤独と隣り合わせの自由。だからこそ同じノマド生活者との出会いはあくまでも優しく美しい。足の引っ張り合いや嫉妬にはならず、助け合い、手を貸し合うが深入りはしない。それでも主演フランシス・マクドーマンドと並び、数少ない役者のデヴィッド・ストラザーン演じるデイブが息子のもとに戻り、孫の世話をしながら、立ち寄ったファーンにここに一緒に住まないか?と持ちかけられた時、迷いはあったと思いますが、明け方そっと出ていくファーン。

この映画は見る人の年齢や性格でずいぶん評価が違うと思います。
惨めな生活に見える人もいるかもしれないし、この暮らしを羨ましい、と思う人も絶対いるでしょう。
正直、体力と運転技術に自信があったなら私もノマド生活やりたい……、いや、そんな甘い生活じゃないことは百も承知ですが。正直いうと、この映画見てる時、やっぱり車もう一度運転するぞ〜!と思ってしまったほど。
数年前、私は車を捨て、以降どこに行くのも公共交通orママチャリor徒歩。おかげで腰痛も治り良いことづくめ。でも難点は持てる荷物が少ないこと。そこいくと、ファーンのように思い出の品を詰め込んで、広大な大地を旅から旅へ・・・(妄想に浸る)
(が、ここで現実に気が付く)これ、だだっ広いアメリカだからいいんですね。日本だと変なところに車停めてたら即警察に不審者として通報されそう。(急に妄想から覚める)
でも、これ、放浪癖のある老人に見せたらまずいんじゃ?と思うくらい刺さる人には刺さります。私は刺さりました(涙)

フランシス・マクドーマンドが本当によくて。ファーンは決して強いだけの女ではなく、夫との幸せな生活にしがみついてるのだ、と後半理解できます。その強くたくましく自由で孤高でありながら、同じように弱く執着を手放さない。彼女を見ていると、映画のハッピーエンドでよくある前向きさが単純な記号を表しているだけに思えます。人間はそんなに一面的ではないし、この映画には女優は存在せず、ファーンという強くて弱さも持つ女性がいるだけです。
それから肺がんが脳に転移していたスワンキー(本当のノマドの人)、彼女が自分の人生をファーンに語る内容も素晴らしい。見てきた大自然の話。中でもアラスカの燕の巣の壁の話。ああ、死ぬ前にもう一度見たい絶景が私にはあるだろうか!?と思わず記憶を辿ってしまったほど。
大した絶景ではありませんが、やはり若い頃は感性が柔らかかったのか、当時は地元の人しか知らない北海道野付半島のある場所を探し当てて辿り着いた時、私と友人しかいないその場所で、頭の後ろがス〜とするような不思議な感覚がありました。摩周湖も展望台から見てるんじゃつまらんと反対側に回って、崖を滑り降り湖に足を浸したときにも同じ感覚が。(これは危険なので絶対マネしないでください)絶景ハイ?とでもいうんでしょうか?もはや感性が鈍りすぎて、とんでもない場所に行かないと、あの感覚は蘇らないかもしれません。
個人的には若い頃の放浪癖が目覚めそうなある意味、ヤバイ映画でした。

肝心のストーリー的には結構、後ろ向きな内容とも見えます。
ファーンは企業城下町のいい時代に愛する夫と幸せに暮らしていた思い出にしがみついています。そのため同じノマドやるのでも季節労働するのでも、もっと気候の良い南の方へ行けばいいものを、今は郵便番号もなくなり無人になった街の側から離れられないのですから。それでもノマド生活を送り、多くの人との出会いを経て、実際のノマドの教祖的存在ボブ・ウェルズが彼女に言います。「最後の別れの言葉を交わす人なんて誰もいない。「いつかどこかでまた会おう」とだけ言うことにしている」またいつかどこかで会える。夫との思い出にしがみついていたファーンはこれをきっかけに、ガレージのものを処分、思い出の街を後に旅立つところで終わります。
起承転結が好きな人にはお勧めしませんが、個人的には素晴らしい映画でした。





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コメント

非公開コメント

Re: こんばんは。

おはようございます。
あら、今、ちょうど瞳さん宅へ伺ったところです(笑)

>そんなtontonさんがご覧になったら今すぐ車上生活にGo~!!と妄想膨らむ気持ち、想像できます

お恥ずかしい(笑笑)
若い頃の放浪癖を刺激されちゃって、ついつい(汗)

原作は読んでいませんが、アメリカの格差を描きつつ、ノマドという生き方に敬意を持ってみているシャオ監督の目線がよかったです。
ノマドの教祖的存在ボブ・ウェルズも本人が演じていましたが、この世代の人って若い頃ヒッピー文化があったので、ノマドのコミューン作ったり、やはり世代が出ている気がします。個人とか自由を重んじる空気とか。
私の世代だと、若い頃バックパッカーがすでにダサくて、旅先で同世代の女の子に「え?日本人?」と驚かれたりしてましたから(笑)漂流する高齢労働者たちがもし日本で増えても、ああいう感じにはならない気がします。

>壮大な大自然の映像をスクリーンで観れて良かったです

よかったですね〜。これ大自然の美しさがインパクトありますから、やはり大画面が大事ですね。

こんばんは。

こちらでもようやく上映始まりましたので観てきました。

tontonさん、刺さったのですね!!
う~ん、それにしてもいろいろな土地に行かれてますよね。摩周湖の崖!?ビックリーー。以前ポルトガルも行かれた!と伺いましたよ。
そんなtontonさんがご覧になったら今すぐ車上生活にGo~!!と妄想膨らむ気持ち、想像できます(笑)

>その強くたくましく自由で孤高でありながら、同じように弱く執着を手放さない
まさにそうでしたね!!
そんな彼女が再び街へ戻ってかっての家を訪れる最後のシーンもとても印象的でした。

ドキュメンタリー風でありながら、詩的で映画的でもある作品、壮大な大自然の映像をスクリーンで観れて良かったです。

Re: 放浪経験

>トン子さんと私の違いは、若いうちに無謀と言っていいような旅をした経験があるかどうか

なんせあの体育会系YHとの旅は運動部の合宿よりキツイかったものの、当人たちは無謀とは全く思ってなかったのよ。
YHとの旅は秘境志向で観光客がこない場所を目指してたんで、鹿や狐には遭遇したから、どちらかといえばスワンキーさんの感動に近かったかも。あの頃は情報が少なかったから若い女の子がそんなとこ行ったら危険、という発想がなかったんだね。今だったら絶対行かない。私は基本慎重だもん。

>マドリードの貧乏食堂

え〜!そんなことあったっけ?(笑)
あなたとの旅は超のつく貧乏旅行とはいえ、ちゃんと人のいる場所への旅だったから、他人との関わりが楽しい思い出になってるね。

>私もノマドにもっと惹かれたような気がする

ただ単にコロナで引きこもってるから、あの生活がステキに見えたのかも?
だってあの生活は旅が目的じゃなくて、季節労働者の話だもん。日本で言ったら、解体業の人とか、原発労働者の人の生活に近いかもしれない。そう考えると、全然ポエムじゃないかも。

放浪経験

そうか、わかった。トン子さんと私の違いは、若いうちに無謀と言っていいような旅をした経験があるかどうかなんだな。
学生時代の私は実家に引きこもって(というつもりはさらさらなかったんだけど)掃除と洗濯ばかりしていた。やらなきゃならなかったからだけど、「悪いけど、ちょっと旅に出させてくれ」くらいのこと、言おうと思えば言えたはずだったと、今になって気付いたわ。

地元の人に「若い女の子が何でこんなとこにいるんだ」と言われるような旅、しておけばよかったなあ。
そういえば、岡山の八つ墓村の舞台みたいなとこでタクシーの運転手さんに行き先を告げたとたん不思議そうに「××××?何もねえ 」と言われたこととか、マドリードの貧乏食堂で「何でこの店に来たの?」って言われたことはあるけどね(笑)。どっちもトン子さんと一緒の時だ。その節はありがとう。

青春期のトン子みたいな旅をいくつも経験していたら、私もノマドにもっと惹かれたような気がする。

ノマドの生活は到底できないと思った私には、稲垣えみ子の生活くらいがいい。彼女の暮らしぶりは、ボブのいう「欠乏ではなく解放だ」の実践だしね。

Re: 私は大事なとこをキャッチし損ねたのかも

>私が見ることになる “走馬灯のように……” ってやつの中の重要なシーンは、〜 大自然の中に生きる動物達ではないけれど、動物がらみ。

ほんと、あなた動物好きだよね〜。絶対、今際の際には猫やウサギや鳥たちが「かぐや姫の物語」のラストのようにチャカポコ迎えに来てくれるよ(笑)
このスワンキーさんはある意味、我々が想像する通りの正しい?ノマドだと思う。彼女はおそらく人間にはあまり興味がなくて、大自然に身を置くための必要経費を稼ぎに来てるタイプに見えた。
そこいくと、ファーンは夫との生活が忘れられなくてその街に執着してるのが、なんとも人間臭くてその弱さも魅力だった。
最初から誇り高い孤高の遊牧民だったら、すごいな〜で感心するだけだけど。

>中学時代に仲の良かった女の子達2人が結婚観について 〜 相手の財力や地位がどれだけ重要かって話しているのを 〜 私はロマンティックなのかいっ? と思ったわ。

私たちはロマンチックよ〜。相手の財力に20代で頭が回るって、ある意味彼女らは賢い。それは我々の親が子供の前でそう言う話をしないから、世の中の重要事項にそういうものがあるって全然気がついてなかったもん。夫の両親はかなり貧乏でヤンキーだったから、いろんな家があるなぁと、最初とてもびっくりした。幸い?反面教師的に育って夫はクソ真面目だけど。
ただどれだけ重要か、って言われると、20代でその心境とは彼女らはよほど苦労して育ったのかな?と同情しちゃうよ。

>私は所詮ぬるいんだと思う

本当にやりたいと、憧れるはもちろん別物で、これ実際やるとしたらあなたの方が絶対向いてわよ(笑)
寒さに強いし、体力あるし、あとほら、デイブがファーンに言ってたじゃん。「君は他の人たちととてもうまく付き合える」(言い方はちょっと違うけど)とかなんとか。
ああいういろんな職場を渡り歩いて、時々出会う他のノマドとも助け合い付き合えることが、実はとっても大事って思ったわけ。
そこが都会のホームレスと違うと思う。
私は初対面の人と話すの苦手だけど、あなたやMさんはいつもコミュニケーション能力高いなぁ〜と感心するもん。
ここで言うノマドやるには、そう言う意味では、体力、社会性、共に人間としてかなり完成度が高くないと難しいと思った。
だから現実には私には無理だなと思いつつ、若い頃、放浪癖があった人間としては、強く惹かれちゃったなぁ。





私は大事なとこをキャッチし損ねたのかも

ほんとにドキュメンタリーみたいだったね。NHKの「ノーナレ」みたいだった。
あの、ライターをやり取りした男の子もホンモノだったの? それはびっくり。
フランシス・マクドーマンドは見事だったなあ。
すごく寒そうな日にバンの中で寝るシーン、ほんとに足がジンジン冷えそうで、あれだけでもう「私にはこの生活は難しいだろうな」と思ってしまった。
昨日、職場で劇場版「鬼滅の刃」の話をしたのよ。「映像や効果音でわかるような“寒い!”って感覚を、キャラクターがセリフにしてべらべら言う件」について。
そしたら社長が「今の子は“寒い!”っていうのがどういうものかがわからないのよ」と言うの。なるほど、“暑い!”はともかく、寒いとか、喉が渇くとか、腹が減るとかを知らないと言えば知らないんだろうと思った。
しかしながら “寒い!” に関しては、私だって知らないわ。我々の県民歌の歌詞で歌われてるもん「常春の国」って。確かに、冬でもぬるい。このぬるい土地で生まれ育った私には、寒い土地での車中泊などできそうにない。世間的には「寒さに耐えられる女」と思われている節のある私だけど、そう思う。

> 助け合い、手を貸し合うが深入りはしない。
これは徹底していたね。相当馬が合う者同士であっても、あっさり「いつかまた会おう」なんだもんね。あれは皆んな「そうあるべきだ」という認識で自分に課しているのかなあ。デイブは一種の落伍者なのかな。
日本だと、あれだけ徹底した孤高の人はかなり特異な存在であって、ほとんどの人はもっともっと交友を深めたがりそう。
でも、スワンキーはとても素敵に見えた。
> 肺がんが脳に転移していたスワンキー(本当のノマドの人)、彼女が自分の人生をファーンに語る内容も素晴らしい。

私も猛烈にぐっときたし共感した。いや、あれほどのシーンを目の当たりにしたことはないと思うし、ムースの一家に遭遇したこともないけど、後々私が見ることになる “走馬灯のように……” ってやつの中の重要なシーンは、何匹かの地域猫達やうさぎ達との交流の場面や、命を救い損ねてしまったキジバトのヒナやその親鳥達にまつわる場面であるような気がしている。大自然の中に生きる動物達ではないけれど、動物がらみ。

ファーンが姉の家を訪ねた時、金儲けの話を側で聞くシーンがあったでしょ。あの時思い出していたことがある。それは24、5歳の頃だったと思うけど、中学時代に仲の良かった女の子達2人が結婚観について喋っているのを聞いた時のこと。相手の財力や地位がどれだけ重要かって話しているのを聞いてとてもびっくりした。私はロマンティックなのかいっ? と思ったわ。

ノマドの人達は、生活費のために季節労働者として働いていて、とは言えどの職場でもきびきびと、けっこう生き生きと働いてはいたけど、年齢的には相当きつい仕事ばかりだし、「この仕事が(金銭的な面以外で)気に入っている」というわけではなさそうだったんで、「もう少し好きな仕事をしてもいいんじゃないか」と思ってしまった。でも、漂流しつつ決まった「好きな仕事」をし続けるのは難しいのかな。ファーンの夫は石膏会社の仕事が好きだったって言ってたけど、どんな仕事だったんだろう。
私自身は仕事を自ら選んで来たってわけでもなくて、「縁あってここで働いています」みたいなことの連続だったけど、仕事の内容自体は結構好きだったから、そこんとこが実感としてよく分からないんだ。
そもそも、ノマドにとっては定住せずに漂流すること自体が最重要テーマなの? 定住はしなくても、季節ごとにある程度決まった土地に移動しているみたいで、根こそ張らなくてもぐるぐる巡っているような気がするけど。だからこそ「また合う」わけで。

> 惨めな生活に見える人もいるかもしれないし、この暮らしを羨ましい、と思う人も絶対いるでしょう。

この映画、とても好きだし、登場した人達も皆んな魅力的だったし、ストイックさには大いに惹かれるし、あの生活を惨めとは全く思わない。でも志向もしない。私は所詮ぬるいんだと思う。

Re: お邪魔します

ゾンビマンさん、いらっしゃいませ〜♪

>私には突き刺さりすぎて、「リヤカーでもいいからノマドやん!」と、熱い拳を握った映画でした

そうですか!刺さりましたか!?お仲間です!(笑)
リヤカーはエコでいいかもしれません。(でも冬は寒そう)

>アメリカだとみんな小奇麗で助け合っていて。
>ちょっと心を持っていかれますよね

現実はどうか分かりませんが、あの付かず離れずな感じがとってもよかったですね。
ええ、心持っていかれましたよ〜。もともと放浪癖のある人間にとってはヤバい映画でした(笑)

お邪魔します

私には突き刺さりすぎて、「リヤカーでもいいからノマドやん!」と、熱い拳を握った映画でした(笑)・・・いやマジで。
ホームレスとかでも、アメリカだとみんな小奇麗で助け合っていて。日本のように暗いつまはじき者みたいなのとは違う。
疲れたミドル世代以上が見ると、ちょっと心を持っていかれますよね。

tonton

映画と本の備忘録。…のつもりがブログを始めて1年目、偶然の事故から「肺がん」発覚。
カテゴリに「闘病記」も加わりました。