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DVD『僕のワンダフルライフ』『ある女流作家の罪と罰』『大人の恋は、まわり道』『ウィンストン・チャーチル』『喜望峰の風に乗せて』

cinema
02 /29 2020
行こうと思ってた美術館も閉鎖。老人ホームも面会謝絶。
新型ウィルス、とても不安です。
昔、ウィルス兵器で人類が滅亡しかけるSFがありましたっけ。映画では草刈正雄がボロボロになって歩いてくるラストが有名だった「復活の日」。学生だった当時、厚化粧のSという友人がいて、彼女は地方から出てきてお兄さんと同居してたのですが、毎朝彼女の長化粧を見て、その兄に「お前を見ていると、毎朝が”復活の日”だな」と言われたという話を突然思い出しました。草刈正雄、当時は興味なくて印象ないけれど、現在の草刈爺やは好きです。「復活の日」ちょっと見直してみたくなりました。

『僕のワンダフルライフ』監督:ラッセ・ハルストレム (2017)
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少年に命を救われたゴールデンレトリバーが、転生を繰り返しながら自分の使命に気付く物語が描かれる。
ラッセ・ハルストレムはスェーデン時代の「やかまし村」シリーズ、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」は大好きな映画です。アメリカに来てからの「ギルバート・グレイプ」や「HACHI」も好きですが、もしかしてこの監督犬好きなのかしら?
いろんな犬種の子犬が見られるだけでも楽しい。飼い犬が歳とってお別れの場面は辛いですが、特に警察犬の話は犬の死よりも、孤独な警官が相棒を失う悲しみが辛い。
この映画は家族で見ていて、なんかズルズル聞こえるので見たら、私以外みんな泣いてます。ドラマ嫌いの夫まで!あらまぁと思いましたが、トンちゃんの顔見たら私もじわ〜。はい、犬好き御用達ですね。映画としては予定調和のハッピーエンドで安心して見られます。

『ある女流作家の罪と罰』監督:マリエル・ヘラー(2018)
can you forgive me
かってセレブの伝記小説でベストセラー作家だったリーも、今では落ちぶれアル中気味。家賃も滞納、愛猫の病院代も払えず、大切にしていたキャサリン・ヘプバーンからの手紙を古書店に売る。この時、セレブの手紙はコレクター相手に高値で売れることを知った彼女は私文書偽造に手を染める。

映画ブログを書いてる方の記事で知り、見てみました。
FOX制作のハリウッド映画で、第91回アカデミー賞3部門<主演女優賞、助演男優賞、脚色賞>ノミネートにも関わらずなぜか日本未公開。確かにスター俳優は出ていないけれど、ドラマ好きに受けそうなとても面白い映画でした。
まずヒロイン・リーの人間嫌いの人となり、荒んだ生活の様子がリアルです。かってのエージェント主催のパーティの乗り込み、トイレットペーパーまで盗み、クローク騙して他人のコートも盗んで帰る。家賃も溜め込み、愛猫の病院代もツケが溜まってて診てもらえない。若い頃の作家仲間ジャックと飲み屋で再会するも、彼もヤクの売人やってかろうじて生活してる有様。
こうやって書くととても暗い映画のようですが、主人公がふてぶてしいせいか、あまり悲壮感漂いません。
主演のメリッサ・マッカーシーは「ゴーストバスターズ」etcに出ているコメディエンヌのようで、他の映画の写真を見るとかわいい女優さんです。しかしこの映画では見事なまでに華を消し、汚部屋に住む、とことん身なりをかまわない不機嫌で太めのおばさんになりきっています。

この映画を見て、なるほど日本では手紙は手書きが主流ですが、アルファベットの世界ではずいぶん昔からタイプだったのね…と納得。だから古いタイプライターを買い揃え、それぞれのタイプに「誰それ用」と付箋を貼り、紙をオーブンで茶色に変色させ、サインを「太陽がいっぱい」のように練習するのかと思いきや、TVを横倒ししてトレース台にする、この捏造場面も面白いです。セレブの手紙の展示即売会とかもあって、どんな世界でもコレクターっているんだなぁと感心。
やがてFBIが動き出し、彼女と猜疑の相棒のジャックは捕まります。
裁判での彼女の言葉。彼女は手紙の主になりきり、さらにウィットの効いた言葉を加えるこの偽造手紙を自分の作品として誇りすら持っていたことが分かります。

ところで、かってのエージェントに何度電話しても居留守を使うので「ノーラ・エフロン」と名乗ると本人がすぐ出てくるシーンがあり、(ノーラ・エフロンはメグ・ライアン主演のロマコメをたくさん撮った脚本監督として知っていたので)笑ってしまいました。
偽造するセレブの名前が色々出てくるのですが、ある年齢以上のアメリカ人にとっては誰でも知ってるような有名人なんだろうと思います。それ知ってるともっと面白いに違いない。だから日本未公開だったのかもしれません。
余談ですが、桐野夏生の作品「IN」は島尾敏雄の、「ナニカアル」は林芙美子になりきって書いているらしいのですが、島尾敏雄も林芙美子も私は読んだことがないので、桐野夏生好きな私にも残念ながら今ひとつピンとこなかった経験があります。
でもセレブの名前を知らなくても十分面白い映画でした。俳優たちのリアルな演技も見どころです。後味もいいです。
飼っていた老猫が亡くなっているシーンは思わずもらい泣き。だからラスト、彼女がたくましくこの経験を自分の作品として書き始める場面、彼女の足元で子猫がじゃれているのをみてホッとしました。

『大人の恋は、まわり道』監督:ヴィクター・レヴィン(2018)
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1月の乳がん検診で先生に冗談言われたのをきっかけに、「免疫アップのために、ときめくぞ!」と苦手な恋愛映画を見てみました。好きなライアン・ゴズリングのは手近になくて、wowowにあったこの映画を見てみました。ちょっとキアヌ・リーブスを久しぶりに見てみたかったし。
感想はロマンチック度ゼロ。身も蓋もない、けれど一応恋愛映画という印象。
ウィノナ・ライダー、久しぶりに見ましたが、50近いというのに、相変わらず顔は可愛い。スタイルも小柄でほっそりと可憐なまま。しかし、かってのファンが見たらガクッときそうな、まあよく喋るけたたましい屁理屈女の役。
キアヌは偏屈な男役で、「結婚できない男」の阿部寛みたい(笑)ほとんどこの2人の会話だけの映画です。
この映画、R15なんですが、露出なんてどこにもありません。なぜR15か?子供がこの映画見て、”恋”とか”愛”というものに幻滅しないようにという配慮かも?
でもこの二人だから、笑える映画です。キアヌ・リーブス、初めて見たのは'91年の「ハートブルー」。映画館で見ましたが、一緒に見た友人となんてスッキリしたイケメン(という言葉もなかった時代)だろうと感心しました。まさに眼福という印象でしたっけ。30年近く経った今でも(一応)イケメンですけど、何年も同じ服着てるとか、変人伝説があるらしい。変人中年同士がこじらせ恋愛を演じる笑える恋愛映画。免疫アップになるかは甚だ不明。

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』 監督 :ジョー・ライト (2017)
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第2次世界大戦勃発後、ナチスドイツの勢いはとどまることを知らず、フランスの陥落も近い中、英国にもドイツ軍侵攻の危機が迫っていた。ダンケルクで連合軍が苦戦を強いられている最中に、英国首相に着任したばかりのウィンストン・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)がヨーロッパの命運を握ることになる。彼はヒトラーとの和平か徹底抗戦かという難問を突き付けられ……。1940年5月、チャーチル就任から約1ヶ月間の話。

『ダンケルク』(クリストファー・ノーラン監督)を見ていたので、背景がよく分かり面白かったです。
まずドイツが強かったのに驚きました。あっという間に周辺諸国を占領、この映画の中でベルギーが陥落、フランスももうすぐ負けそうという背景。で、イギリスはムッソリーニと通じてヒトラーと和平交渉しようとする一派が主流のようで、チャーチルもダンケルクで30万人のイギリス軍が包囲され、ヒトラーとの和平か、断固戦うかの瀬戸際に立たされる1ヶ月の物語。
前任者チェンバレンの後任として、危機的状況のため党派を超えてチャーチルが指名され首相になったにも関わらず、周囲は敵だらけ。最初国王にまで嫌われてます。
面白いと思ったのは、地下道で官邸と内閣府?が繋がっていて、何度も出てくるチャーチルが暗い地下道を歩いて帰宅するシーンとか、専用トイレがあって、そこからアメリカのルーズベルトに電話して個人的に交渉したり、いきなり国王が夜遅く訪ねてくる部屋(仮眠用?)とか、この場所の構造はどうなっているのだろうと思わせる作りです。
全体に薄暗い画面の中に指す光が印象的で、演劇の舞台のようでもあり、時代を感じさせる凝った映像です。
見ていて、疑問がいくつか。
ドイツは第1次大戦で莫大な賠償金を背負い、人々の暮らしは大変なことになっていたはずなのに、なんでそんなに強い軍事力を持っていたのか?台詞の中でも「世界最強の軍隊」と言われています。失業者で溢れていたドイツの人々に国が大量に仕事を作ったと、そういえば池上さんの本『『世界から戦争がなくならない本当の理由』に書いてあったと思いますが、そこだけ見るとヒトラーって優秀な政治家だったんだな〜と思わず思ってしまうほど。
次に地下鉄でチャーチルが国民の意見を聞くシーンがあるのですが、黒人男性と白人女性のカップルがいて、少なくともアメリカに比べると黒人差別が少なかったのかな?と思った点。(でもこのシーンはフィクションらしい)
それから、ゲイリー・オールドマンがこの映画でアカデミー主演男優賞ほか、様々な演技賞を、辻一弘がメイクアップ賞をとりましたが、そもそもなんでこんなに太っている人をわざわざ痩せているゲイリー・オールドマンにやらせたのか?だって特殊メイクってすごく時間もかかるし大変そうじゃない?この映画で最大のクエスチョンはそこです。

『喜望峰の風に乗せて』 監督 :ジェームズ・マーシュ(2017)
THE MERCY
(一部文字を反転しておきます)
日本語のタイトルに騙されました。原題はTHE MERCY(慈悲)だそう。
1968年、初のヨットによる単独無寄港世界一周レースに参加したドナルド・クローハースト氏の実話に基づくドラマ。イギリスでは有名な話らしいです。
主人公(コリン・ファース)はアマチュアセーラー。船舶用測定器を作ったエンジニアで起業家。レースに参加して自社の宣伝を思いつき、自ら転覆しないヨットを設計。周囲を巻き込み、資金を調達、マスコミを広報担当に、レースに向けて準備を始める。ここまでは思いつきの夢を実現しようとする明るい調子のお話だったのですが、ヨットの製作が遅れに遅れる辺りから物語に暗雲が立ち込めてきます。そしてこれ以上遅くできないと見切り発車を始める辺りは思わず「やめたら〜」という気持ちでいっぱいに。本人もさすがにこれは無謀すぎたと気がつくものの、今更、周囲も許してくれません。みんなに見送られて出航する時が、見ていて一番暗い気分になりました。

案の定、大自然はアマチュアセーラーの手に負える相手ではなく、出航してすぐに悪天候や船酔いで完走は無理と悟った彼ですが、スポンサーとの契約で失敗したら家や会社も取られてしまうこともあり、航海日誌の偽装を始めます。
家族に会いたい、でも棄権したら破産、の板挟み。だんだん幻覚や幻聴に苦しめられます。大自然の脅威以上に彼を苦しめたこの「孤独」の描写がほとんどホラーみたいになってきて見ていてしんどい。
そしてとうとう…。ああ〜、私が女だからか、リアリストだからか、なんで?と思うのですが、名誉を重んじる英国紳士だとこういう選択になってしまうのかな。それでもきちんと記録を残した彼。この心情はいかなるものなのか?
ラストに優勝者が彼の家族に賞金を寄付したという話は救いですが。

妻役レイチェル・ワイズが'60年代イギリスの貞淑で美しい妻役。私にはこの女優さんはとてもきれいに見える時と、田舎のお姉ちゃんみたいに見える時があるのですが、この映画では文句なく美しい。レトロなワンピースもとても素敵。

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『ダンサー そして私たちは踊った』監督 :レヴァン・アキン

cinema
02 /25 2020
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2019年ジョージア映画。
美術館に行く予定でしたが休館でした。で急遽変更、なんの予備知識もなく見ました。
実はタイトルとジョージア映画ということから、ダンサーを目指す若者たちのドキュメンタリーかな?と予想してみたら、ダンサーを目指す若者の”青春ドラマ”でした。そして予想外な展開。

舞台はジョージアの伝統舞踏のための国立ダンサー養成学校。主人公はメラブという18、9才の少年or青年。子供の時からコンビを組んでいるマリと日々ハードな訓練を積みながら夜はレストランのアルバイトで家計を支えています。兄は怪しい電気工事の仕事をしつつやはり同じ学校でダンサー修行。どうも祖母や別居の父もかっては伝統舞踏のダンサーだったらしいのですが、家は電気を止められちゃうほど家計は苦しい様子。ある日、イラクリという青年が舞踊団に入ってきて、二人はメイン団のオーディションのために猛特訓を開始するが、メラブの心は、このライバルに惹かれていく。
さらにマリの誕生日を学校のみんなで、彼女の別荘?に泊まりがけで行くのですが、そこでえっ?という展開に…
ここで私は『マイ・ビューティフル・ランドレット』 (1985)を思い出しました。

ジョージアの伝統舞踏は男性ダンサーに求められるのは優雅な動きではなく、力強さとか男らしさのようです。
そのためか、ゲイはかなり差別されている様子。しかし一旦恋する若者になったメラブのウキウキルンルンな様子はとても可愛いです。
しかしメラブには長年の付き合いのマリちゃんが、イラクリにも故郷に恋人が。ってことは2人とも無自覚ゲイだったってことなのか?それとも(言い方えげつないですが)男というものはそもそも見境ないものなのか?その辺はさっぱり分かりませんが、ジョージアの経済事情は若者たちにとって将来が見えないようです。イラクリは病気の父のために故郷の恋人と結婚することになり、ふられてガ〜ンとなるメラブです。しかしラスト、舞踏団のオーディションで踊る踊りは感動的。それは伝統舞踏に求められる男らしいものではなく、柔らかで優美な動きで自分の踊りたい踊りを見せます。きっと、ジョージアを出て自分らしく生きる決意の表明なのだと思います。
最後までメラブの理解者として寄り添うマリちゃんと兄。いい青春ドラマでした。

そして!ここが個人的に一番肝心なんですけど、この映画、食べてるシーンがやたら多いんです。それがめっちゃうまそうなのよ!!!
ジョージア、調べてみたら、ワイン発祥の地にして日本人の口に合う料理がたくさんあるそうな。小ぶりな肉まん風とか、煮込みとか、果物やチーズもうまそう。ジョージア、俄然行きたくなりました。
ジョージア出身のお相撲さんにもいるんですね。なんかアラブ系の人をもう少しソフトにした容貌で、マリちゃんなんて、とっても日本人好みのシルクロード美人。
でも若者文化の全世界共通性はまさに今の時代です。
スマホの着信音、ラインの画面。さらに壁の落書きは日本のアニメ?彼の部屋にもジブリのポスター。
ジョージアというなじみのない国の若者が日本になじみがあるんだ〜とちょっと嬉しい発見。



『リチャード・ジュエル』監督:クリント・イーストウッド

cinema
02 /19 2020
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1996年、アトランタオリンピック中コンサート会場で爆破テロ事件が発生。警備員のリチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)が爆弾の入ったバッグを発見したことで多くの人々の命が救われた。一躍ヒーローとして有名になったジュエルだが、FBIは第一発見者であることから彼を容疑者としてマーク。そのことが女性新聞記者キャシーにリークされ容疑報道が過熱。かって備品係として働いていた職場で知り合ったワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)を弁護士に頼み、2人はFBIとマスコミを相手に異議を唱える。

友人からサム・ロックウェル祭り?に誘われ、サム・ロックウェルもいいですが、何と言ってもクリント爺さんの新作です。こうなったら最後までお付き合いします。クリント爺さん89才にして、39(?)作目の監督作品。
映画は最近のクリント爺さんの作品らしく、ドラマチックに盛り上げたりせず、半ば再現フィルムのようなドラマ。でも実話にインパクトがありますから、不思議とちゃんと面白いです。あ、もちろんクリント爺さんの演出も年齢を感じさせないところがすごいです。なんちゅうか自己満足的な芸術表現とか興味のない人らしく、そういう所も私は好きです。

この主人公リチャード役ポール・ウォルター・ハウザー、どこかで見たことあると思ったら、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のトーニャ・ハーディングの夫の友達役。こいつのせいでトーニャはケリガン襲撃の大スキャンダルに巻き込まれてしまうしょうもなくアホな男の役でした。ここでも「太ってて親と住んでる」設定。この2つの映画から、アメリカにおける偏見の一典型例を見た気がします。
まず見た目。リチャードはかなり肥満体です。そして30すぎてママと住んでます。
日本は家賃が高いので、30すぎても親と住んでる人は大勢いて何ら問題ではありませんが、アメリカは成人したら親から独立するのが基本なので「ママと住んでる」ことが批判的に見られています。
肥満に関しては、個人的には今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマンが好きだった私としては、実はデブ好きな女性はたくさんいるんじゃないか、デブ好きな男性はさらに多いのではないか?と密かに思っているのですがどうなんでしょう?
しかしリチャードはずっとひどいことを言われ続けてきたようです。だから、ワトソン(サム・ロックウェル)がなぜ自分に弁護を頼んだのか問うと、彼だけが人間として付き合ってくれたからと答えるのです。
はじめにリチャード犯人疑惑の記事を書いた女性記者も「孤独なプアホワイト」と犯人をイメージ。そのイメージにリチャードを当てはめていきます。

怖いと思ったのは、FBIは過去のいくつかの事件に倣ってプロファイリングの結果、英雄になりたがる第一発見者という犯人像を導き出し、第一発見者であることこそが、リチャード・ジュエルが疑われる最大の根拠だったのです。
確かに他の警備員は誰かの忘れ物だろうと気にも止めません。でもリチャードがうるさく言ったから警察が呼ばれ、3本のパイプ爆弾が発見され、被害が少なくて済んだわけです。
事件前、リチャードの融通の利かないクソ真面目さが周囲の人を苛立たせている描写があります。そして犯人と見られてからは、有る事無い事書かれます。どんな人間も叩けばホコリの1つや2つは出てくるでしょう。しかし一回偏見の目で見られると、実際の司法による逮捕もないのにマスコミ報道は暴走します。私はこの映画を見て、松本サリン事件を思い出しました。
やがて何も証拠がなく手詰まりのFBIの取り調べにリチャードは問います。
「警備員が不審物を見つけても、第1発見者になると疑われるからと見過ごしていたら、どうなるのか?」と。

事件後リチャードはずっと憧れていた警察官になっています。エンドロールに2007年心臓疾患で44歳で亡くなったとありました。彼にとってFBI以上の敵は”脂肪”だったのですね。

『星空ロック』『世界のはての少年』『ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り』他

book
02 /17 2020
最近、つまみ読みが多くて、ここには最初から最後まで完読した本だけ備忘録として記載。

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『星空ロック』那須田 淳:著
14歳の少年レオが大家のケチルというドケチで偏屈な90歳の老人と親しくなる。ケチルが戦前ドイツに留学していた時の思い出のSPレコードを亡くなる前に託される。単身赴任の父と親子3人夏休み欧州旅行の予定が父が盲腸で入院したため先に母が出発、後から単身ドイツに渡り両親と合流するまでベルリンで過ごしたレオの4日間。同い年のユリアン、さらにその同級生兼義妹のリサ、リサのバンド仲間、戦前のケチルの思い出の場所、人などと出会う濃密な4日間を現在のドイツ事情を絡めて描いている。
このドイツ事情が面白いといえば面白いものの、どれもサラッと表面的に撫でるのみ(4日間の出来事なので仕方ない)。複雑なステップファミリー、ルームシェア事情、現在のドイツが舞台だと絶対出てくる難民の話、etc。作者はドイツ在住だそうで、「ドイツ流〇〇の暮らし」のようなちょっとおしゃれな異国暮らしを絡めたヤングアダルト小説という印象。
でも戦前日本人が純粋音階のパイプオルガンを作った話など、初めて知ることや、ケチル爺さんの思い出の曲や、レオが最後にコンサートで弾くカノンロックなど、ユーチューブで確認できて、音楽の部分はとても楽しいです。
キャラはケチル爺さんは面白いけれど、ユリアンが絶世の美少年、リサもレオが一目惚れする素直で元気なかわい子ちゃん、アフリカからの難民の少年も難民という記号を与えられているだけな印象。せっかくユリアンが人目を引く美少年なら、リサをその陰でふてくされた暗い少女にして、でもマイク握ったら圧倒的な歌唱力の持ち主にしたり、ユリアンをイカつい少年にして、でも見た目と違って繊細な表現力の天才ピアニストにすればもっとキャラが立ったのに、なんだかキャラ設定が素直すぎて物足りない、と思うのは私がヒネタおばちゃんだからかも?中学生に読んでもらうには美男美女にしないとダメなのかもね。


『世界のはての少年』 ジェラルディン・マコックラン :著
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こちらも児童文学。スコットランド最果ての島を舞台にした苛酷なサバイバル。何と実話を元にした物語。こっちは歯ごたえありました。
子供9人大人3人を乗せた船が、スコットランドのヒルダ島から、無人島へと出帆した。孤島で海鳥を獲る旅が、少年達にとっては大人への通過儀礼なのだ。だが約束の3週間が経っても迎えの船は現れない。この島から出られないのではないかと不安がつのり、皆の心を蝕み始める。そんななか年長の少年クイリアムは、希望を捨てることなく仲間を励まし、生き延びるために闘った9ヶ月のサバイバルストーリー。
ジュール・ヴェルヌ「15少年漂流記」、吉村昭「漂流」、ウィリアム・ゴールディング「蝿の王」、イザベル・オティシエ「孤島の祈り」、今ざっと思いついた既読の無人島置き去りサバイバル小説です。「15少年漂流記」は子供の時に読んだだけなので内容を忘れていますが、それ以外はどれも強烈なイメージが残っています。
吉村昭「漂流」はドキュメンタリータッチの淡々とした描写で、純粋にサバイバル小説として読みましたが、「蠅の王」と「孤島の祈り」は極限状況の心理や人間の持つ残酷さも描写され、精神的にも過酷なサバイバル小説です。

その点この「世界のはての少年」はちょうどその中間の印象です。
登場人物一人一人のキャラがよく描かれていて、悩む前に手を動かす職人タイプの大人、権威を笠に他を支配しようとする意地の悪い大人、校長先生が最も精神的に弱く生きる希望を失ってしまう場面もリアリティがあります。少年たちも純粋すぎる年少の少年、残酷ないじめっ子、少年として育てられたけれど実は少女だった子をめぐる思春期の少年達の動揺、そして主人公クイリアムは常に他を思いやり、役割を与えることで少年達に生きる希望を持たせます。それは残忍ないじめっ子にすら平等に与えられ、彼の無骨で素朴ながら高潔な人間性をよく表しています。そして本土から来た年上の女性を心の中で想像し、この現実を乗り切る力とする愛の物語にもなっています。
物語の根底にはキリスト教が色濃く存在し、予兆や迷信も重要なポイントです。宗教は彼らを支えると同時に、混乱の元にもなっています。
18世紀スコットランドの辺境の島の貧しさに驚かされますが、ブーツやロープ、鍋など、この時代は世界中どこでも、今では想像がつかないくらい、物が貴重だったんだろうと思われます。
迫力ある自然描写、人間心理も児童文学とは言え、弱さも残酷さもリアルに描かれ、それでも希望を失わない児童文学としてのツボも抑えていて、ラストも感動的。しかし実話の方(ヒルダ島を襲った悲劇)はこの物語以上に過酷だったそうです。
それにしても岩しかない切り立った孤島の寒さには、私だったら1週間も耐えられない。

『ポバティー・サファリ イギリス最下層の怒り』ダレン・マクガーヴェイ (著)
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著者はイギリス、スコットランド、グラスゴーの貧困地域で育った。母はアル中とヤク中。学校はちょっとした言葉が暴力を誘発する環境だったが、なぜそんな環境に耐えられたかというと、母が包丁を持って本気で追いかけて来る家庭だったため、母の恐ろしさに比べれば学校生活はまだマシだったから。そんな母は若くして亡くなる。
著者は中学生の時、児童カウンセリングを受けるために街境を超え、豊かな地域に週1回足を運ぶ。そこで「刺される心配がないところだと、みんなこんな服装をするのか」と驚く。そのくらい同じ国の同じ都市でも地域によって分断されていることが分かる。

そんな当事者から見ると、たとえ貧困の問題が取り上げられても、それは「ある種のサファリのように、現地の住民を安全な距離からしばらく眺めたあと、やがて窓を閉じてそのことは徐々に忘れていった」と語る。
ここは自分にも思い当たり、耳に痛い。例えば最近見た映画を思い出しても『ジョーカー』『家族を思うとき』、私はこれらの映画を見ている時に、その主人公の置かれた辛い境遇に胸がつぶれる思いで見ているけれど、それは映画が終わって友人とお茶している時に早くも他人事となる。この繰り返しである。私も「ポバティ(貧乏人)のサファリ」を娯楽として眺めているだけだから。

著者は左派やリベラルの欺瞞、右派の自己責任論、中流階級への怒りを綴る。
しかし彼はそこで終わらず、自らの批判や怒りの根源に自らの生育環境への恨みと憤りがあると認める。自分自身がアルコールや薬に溺れ、自分の前進の妨げになっていた。自分が傷つけられたことだけを見て、他人を傷つけてきたことが見えていなかったと正直に認めている。自分を犠牲者として常に外部に責任をなすりりつけてきた生き方を反省している。とはいえ貧困の問題は非常に複雑で、だからと言って自己責任で片付けられるはずもない。そこから抜け出すのは簡単でないことを繰り返し訴えている。

貧困層の人々がその環境に怒りと不満を持つのはもっともなことである、しかしそこで援助するだけではダメで、ここに左翼、リベラルの発想から抜け落ちているものを指摘している。援助は必要だけれども、必要なのは貧困にいる当人自身の力、個人の果たす役割を引き出すべきであると。
全然違うけれど、例えば海外援助でも同じと思うし、もっと身近な例で言えば、医療者と患者の関係でも同じだと思う。例えば最近の病院は手術翌日には歩かされる。それは患者自身の持つ力を引き出さなければ、健康は取り戻せないことが分かってきたからだろう。

話が飛ぶけれど、最近一番不気味だったこと。「社会」はあらゆる人々を含んで「社会」だと思ってきましたが、今裁判中の重度障害者を19人も殺害した犯人の言い分に驚きました。そしてそれがみんなが言わない本音だと本人思い込んでることが怖い。言わせてもらえれば「あんたみたいな大量殺人者も含んで「社会」っていうんだよ!」 この犯人、どこでそんな思い込みを持ったのか?経済効率重視はカルト宗教のように人々の心を蝕んでいるのか、と怖くなった。

ところでこの本は私には読みづらかったです。著者は正確に誠実に意見を言おうと思うあまりなのか?それとも単に訳がこなれてないのか?一つの文が長くて、す〜と頭に入ってこない。それから例えば「ブレグジット」という言葉が注釈なしで当然のように出てくるけど、私には?だった(ブレグジット=イギリスのEU離脱)。でも夫にブレグジットと言われて普通に通じる?と聞いたら、「普通は通じるよ」と言われました。あ、そうなんだ。


『世界から戦争がなくならない本当の理由』 池上 彰:著
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なぜ、戦争はなくならないのか?「戦争のない世界」は訪れるのか?「過去から学び、反省をして、現在と未来に活かせる教訓を引き出すことが必要」と説く著者は、本書で日本と世界の戦後を振り返り、読者とともに「戦争の教訓」を探してゆく。
さすが池上さん、ともかく読みやすい。読みやすすぎて、読み終えてみると、え〜っと何だっけ?と内容が右から左にスルー(これが池上さんのせいではなく、私のオツムの問題)
印象に残ったのは、日本とドイツの戦後比較。日本人論的な部分を興味深く読みました。

『マイナス50℃の世界』米原万里:著
-50℃
厳しい自然条件に見事に適応しながらたくましく生活するヤクートの人々。ロシア語同時通訳としてシベリア取材に同行した著者が、現地でのオドロキの日常生活をレポート。米原万里の幻の処女作、ついに文庫化!

米原万里さん、すごく面白いエッセイをたくさん書いていたけれど、若くしてお亡くなりになってしまいました。これが処女作ということで読んでみました。まだのちの彼女らしい皮肉や鋭い突っ込みはなく、素直な驚きのレポートです。小学生新聞に連載されたものと知って納得。





『ジョジョ・ラビット』監督 :タイカ・ワイティティ

cinema
02 /12 2020
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舞台は第2次大戦下のドイツ。母親と2人暮らしのジョジョは10歳の男の子。猛烈な愛国少年で部屋の壁一面にヒトラー総統のポスターを貼っています。立派な兵士になろうとヒットラーユーゲント(ナチスの青少年団)の訓練キャンプに参加するも、ウサギを殺せと命じられできずに、ジョジョ・ラビットとあだ名を付けられからかわれます。手榴弾でケガして、後方支援のビラ貼りをしていたある日、自宅の隠し部屋にユダヤ人の少女が匿われていることを発見して大混乱。

この映画、すごく好きです❤️
ジョジョはユダヤ人を罵り勇ましいことを言ってますが、未だ靴紐も結べずいつもママ(スカーレット・ヨハンソン)に結んでもらっている甘えん坊。心の友アドルフ・ヒトラーにいつも励ましてもらっているのですが、このヒトラー、なかなか気のいい奴です。ヒトラー役は監督のタイカ・ワイティティが演じていますが、この人マオリ族とユダヤ人のハーフだそうで、彼がヒトラー役をやること自体、強烈な皮肉になっています。
画面が全体に柔らかい色調で、家や部屋のデザインも可愛い。ママのファッションも不思議系レトロでおしゃれ。

ビートルズのメロディをバックにジョジョが元気に走っていくオープニングシーンが素晴らしく、ワクワクしました♪
戦争中なのに、可愛い画面と相まってのんびりしたムードが続きます。ヒットラーユーゲント率いる大人たちもケガして戦線離脱したアル中でゲイの軍人をサム・ロックウェル。子供を18人産んだという太った女性など、コメディタッチ。
通報により家宅捜索されるシーンは緊張の連続。とは言え、この場面で「ハイル・ヒットラー」という挨拶は順に一人一人人数分言う形式だったようです。みんな真面目にやってるけれど、本当におかしくって、絶対この挨拶のアホらしさをバカにしてます。

そうは言っても第2次大戦中、それも敗戦の色濃い末期のドイツ。最後までのんびりとはいきません。
前半ママのおしゃれな靴が印象的と思って見ていると、この靴は後半重要なポイントになります。かなりショックな形で。
爆撃されアメリカ軍に占領された街で、サム・ロックウェルがいい仕事見せてくれます。この人は「バイス」のブッシュ(息子)といい、「スリービルボード」の警官といい、いつも面白い。
エンディングはデビット・ボウイ。
ジョジョもジョジョの親友ヨーキーもまさに子供らしい子供。対するユダヤ人少女はずっと年上の大人。やがてジョジョはお腹の中に蝶々が飛ぶ感覚に襲われます。この意味は映画でご覧ください。
男の子の持つ幼さ、バカさ、単細胞さがなんとも可愛いのですが、だから戦争が無くならないのか?とちょっと思ってしまったのは考えすぎ?

追記:第92回アカデミー賞が発表されました。結果はご存知の通り、アカデミー賞始まって以来のサプライズ、史上初英語圏以外の韓国映画が主要4部門制覇。カンヌパルムドールに続き、『パラサイト 半地下の家族』が作品賞に輝きました。
ポン・ジュノは『吠える犬は噛まない』『殺人の追憶』以来見逃せない監督ですが、それまでの韓国の世界的な有名監督、イ・チャンドンとかキム・ギドクの芸術的な作風に比べるとかなりエンタメ度が高いです。
だからカンヌには少々驚きましたが、アカデミー賞は納得できます。ただアカデミー賞ってあくまでアメリカ資本の映画対象だと思っていたので、その点は驚きましたが。
韓国映画は随分前から国が資本投資して育ててきたのは有名な話ですが、そこで少々不思議に思うのは、国がお金出すと、日本だとお上の顔色伺ってしまいそうな気がするのですが、韓国映画の政府批判の忖度なしにはいつも感心します。
反対に、美術展でも文化でも、”批判的なものに批判する”日本の風潮はかなり謎です。
何はともあれ、アジア初の快挙、とっても嬉しいです♪
『パラサイト』唖然とする本当に面白い映画ですが、好きか?と言われると、『ジョジョ・ラビット』の方が好きです♪



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映画と本の備忘録。…のつもりがブログを始めて1年目、偶然の事故から「肺がん」発覚。
カテゴリに「闘病記」も加わりました。