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『万引き家族』 監督:是枝裕和

cinema
06 /27 2018
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14年前、『誰も知らない』を見たときは、怒りとも悲しみともつかないやり切れなさを感じました。
衝撃という意味では私にとっては「『誰も知らない』の方が大きかったと思います。
それは子どもを捨てる側が描かれた話でした。
対してこの『万引き家族』は子どもを拾う側の物語。
この『万引き家族』では監督の”怒り”をより強く感じましたが、私個人としては「なんてちゃんと機能している家族」なんだろう、と感心してしまったほどです。
私は家族は機能だと思っているので、一人で生きていけない幼い子供は食事を与え、安心していられる場と寝場所を確保することは家族の機能として最低限の必須なのに、虐待で寒い夜に外に出すなんて言語道断。安藤サクラのいう通り、捨てる親がいたから拾って幼児に必要なものを与えて家族として育てて、何が悪いの?と思ってしまいました。
祥太という少年がこの家族の息子になった経緯はラストで明かされますが、少女と同じで、血縁上の親が捨てたものを拾って育てただけという安藤に、女性警官の投げる言葉は全く説得力を持たず、怒りすら覚えました。
しかしこの少年は父親から教わった万引きに疑問を持ち始め、わざと捕まることをきっかけにこの”家族”は崩壊します。これはこの少年が自分で判断できるまでに成長したわけで、この家族から卒業する時がきたということ。そしてそれまでの親の庇護が必要な時期をこの万引き家族がきちんと担っていたわけで、ものすごくちゃんと機能してるじゃん、万引き家族! マスコミも役所もこの家族を褒めてもいいくらいなのに…。
例えば海に遊びに行った時、父は朝立つ現象?について、男ならみんなあるもんだと言って、病気かと思って心配していた少年を安心させます。こういうちょっとした会話が親としてすごくきちんと機能しているのです。これこそが家族の役割ってやつじゃないのかな〜。
だから、犬や猫の里親と同じで、もっと拾う家族がいっぱい増えて、万引きしなくても生計が成り立つように、公的に助成すればいいのに!きっとこの映画から感じる監督の怒りはそういうことなんじゃないでしょうか?(ちょっとちがうか?)
役者がみんなよくて、樹木希林にリリーフランキーと聞いただけで、「え?また〜」とがっくりしてたのですが、これはそれぞれ本当にピッタリでした。そして何よりも安藤サクラの素晴らしいこと。
子どもたちも本当に自然で、子役のリアルさを引き出すのはこの監督の得意技なんでしょう。

しかし家族として感心したのとは別に、夫婦とも万引きが仕事なわけではなく、仕事を持っているにも関わらず、非常に貧しいという現実。監督の怒りはこれに対するものだったのかもしれません。
映画のあと友人と、「これが昔だったら、こういう家族っているんだなぁ」と他人事で終わっていたけれど、今や、こういう転落をする可能性は誰にでもあるよね、という話になりました。
先日のNHKスペシャル「ミッシングワーカー」の話題になり、このドキュメンタリーの衝撃に比べれば、愛がたくさんあるだけ幸せな家族の物語と言ってもいいほどです。
そのくらいじわじわと孤独と貧しさに覆われているのが今時の日本の現実なのかもしれません。

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tonton

映画と本の備忘録。…のつもりがブログを始めて1年目、偶然の事故から「肺がん」発覚。
カテゴリに「闘病記」も加わりました。